特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」が11月30日まで東京国立博物館(本館特別5室)で開催されています。
奈良・興福寺の北円堂(ほくえんどう)は、本尊の国宝 弥勒如来坐像(みろくにょらいざぞう)と両脇に控える国宝 無著(むじゃく) ・世親菩薩立像(せしんぼさつりゅうぞう)が、鎌倉時代を代表する仏師・運慶晩年の傑作として広く知られています。運慶の仏像が安置される空間をそのまま伝える貴重な例である北円堂は通常非公開ですが、修理完成を記念して弥勒如来坐像の約 60 年ぶりの寺外公開が決定いたしました。
本展は、弥勒如来坐像、無著・世親菩薩立像に加えて、かつて北円堂に安置されていた可能性の高い四天王立像を合わせた7軀の国宝仏を一堂に展示し、鎌倉復興当時の北円堂内陣の再現を試みる奇跡的な企画です。国宝7軀のみで構成された至高の空間をご堪能ください。

国宝 弥勒如来坐像 運慶作 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵 北円堂安置 撮影:佐々木香輔
世界遺産・興福寺は、710年の平城遷都の際、現在の地に誕生し、1300年の時を重ねています。境内の北西に位置する北円堂は、創建者である藤原不比等ふじわらのふひとの追善のために721年に建立されるも、1049年の火災、1180年の平氏による南都焼き討ちで二度にわたって焼失してしまいます。復興には長い年月が費やされ、1210年頃に堂が完成、造像は氏長者近衛家実このえいえざねの命により運慶一門が手がけ、1212年頃には北円堂諸仏が再興されています。

国宝 興福寺北円堂 堂内 撮影:佐々木香輔

国宝 興福寺北円堂 外観 撮影:佐々木香輔
堂内に安置する仏像は、創建時にならい、弥勒如来をはじめとする9軀とされました。弥勒三尊像の両脇には、北インドで活躍し、法相宗の根幹となる唯識ゆいしき思想を確立した無著・世親兄弟の像が控えます。このとき完成した像のうち、今に伝わる弥勒如来像、無著・世親像の3軀は、力強さや写実性を持ち合わせつつ、静かな落ち着きに包まれており、ここに運慶が晩年に到達した境地を見ることができます。
また、このときの北円堂の四天王立像は長い間失われたものとされてきましたが、現在中金堂に安置されている四天王立像がこれにあたるという説が近年支持を集めています。にぎやかな装飾、激しい表情の四天王立像は、弥勒如来像、無著・世親像とは雰囲気を異にしますが、天平彫刻を基調としたその優れた造形から運慶一門の作とも考えられています。
本展では、北円堂の弥勒如来像と無著・世親像、中金堂の四天王立像を組み合わせて展示することで、鎌倉復興当時の北円堂内陣の再現を試みます。弥勒如来像は、2024年度の修理を経て、約60年ぶりに東京で公開されます。運慶の最高傑作が織りなす祈りの空間を、ぜひお楽しみください。
11月30日(日)まで。
詳細は以下よりご確認ください。
https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=2706