漱石作品を原作にオペラを書こうと思ったきっかけや経緯について、台本・音楽を手掛けた長田氏は「漱石は、子供の頃からあまりにも身近な存在であったためか、最初はオペラ化の対象に全く入っていませんでした。きっかけは『夢十夜』を英語で読んだスウェーデン人の友人が「これをオペラにしたらどうか」と発案したことです。その視点で改めて英語で作品を再読した所、この小説の持つ幻想性、つまり夢として語られる、これらの話の設定・登場人物の微妙な超現実性が、オペラが本質的に持つ非現実性、つまり登場人物が台詞を全て歌うという設定と良く対応していると気付いたのです。また各話は短く構成がシンプルで分かり易いので、オペラの主役であるべき音楽が自由に呼吸し、物語を推進させるスペースが充分にあると感じました」と話しています。

オーケストラの練習風景
Courtesy of Japan Society ©Ben Warren

 オペラ「Four Nights of Dream」では、「The First Night」(原作「第二夜」)、「The Second Night」(原作「第十夜」)、「The Third Night」(原作「第三夜」)、「The Fourth Night」(原作「第一夜」)というように、原作と順番を入れ替えて再構成しています。
 『夢十夜』の中からこの4編を選んだ理由について長田氏は「まず実際的な問題として、10編の内、舞台化に耐え得ると思われるものを選びました。『夢十夜』には、想像力を刺激する抽象的な話がありますが、そのような話は必ずしも劇やオペラ向きとは言えません。さらに抜粋した4編は、オペラの古典的テーマとも言える、愛(性)か死、またはその両方をそれぞれ題材にしていることも理由のひとつです」としています。
 
 また、原作と順番を入れ替えたことについては、「4編を並べてひとつのオペラ作品とする際、最も構成的にしっくり収まるように入れ替えたためです。また原作同様、オペラ中でも、各シーンのドラマ上の繋がりは表面的にはありませんが、例えばシーン1(The First Night)とシーン3(The Third Night)、またシーン2(The Second Night)とシーン4(The Fourth Night)は、それぞれ同じ歌手が主役になるという関係があり、その他シーン同士の「隠された」関係性や暗示も皆無ではありません」としており、『夢十夜』の中でも特に印象的な4編に音楽が付くことでどのような効果が得られるのか、自然と想像力が掻き立てられます。